2018年11月27日

常温も悪くないが、燗はさらにいい。

 常温の酒
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味わいが柔らかくなり、活き活きする。輪郭の線がなくなる。どこまでが酒で、どこからが口の中なのか、どこまでが体でどこからが体の外の世界なのか。目を閉じると、意識だけが身体から解き放たれるような感覚になる。

冷めていく過程も、冷めきったあともまた美味い。翌朝に徳利に残った酒もなかなかいい。

食事との相性もあきらかにいい。ひやや冷酒とは次元が違う。

暖まるからというのもなくはないけど、暖まるためだけに飲むわけではない。うまいから飲む。なので、夏でも燗。温まるのだけが目的なら、白湯でいい。


直近では、紺碧の渓谷で、舞い散る紅葉の中での燗は最高でした。

 屋外で飲む
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昔は酒をのむといえば燗をつけるのが当たり前だったようです。平安時代中期の『宇津保物語』にはもう「わかしつつ飲ます」話が早くも出てくるそうで、落語や昭和初期までの小説、映画などでは酒はたいてい燗。「ひやでもええから」「ひやですみません」といった表現もでてくる。いまぱっと思い出せる、燗をつける場面がある作品たちをいくつか。

 矢橋船
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 晩春
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 まあだだよ
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白楽天の詩にも燗が出てくるので、昔から東アジアの一部ではみられた光景だったようです。リンク先の画では火鉢に燗鍋をのせてますね。

 酒の燗に紅葉を焚く
 http://exci.to/2r2lEYo


いまでも紹興では燗をしてますが、これが絶妙でした。燗用の湯煎に使うおおきな寸胴鍋の角ばったようなものがあって、その寸胴より一回り小さい鍋にいっぱいの酒を温めていました。その鍋の蓋を取って、おたまで掬って湯呑みに入れてくれる。

 紹興「咸亨酒店」
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ところで、日本酒には二種類あります。燗に合う酒と、そうでない酒です。もちろん燗に合う酒がおすすめです。たいてい、燗に合う酒のほうが常温で飲んでも美味しいです。

燗に合わない酒は、文字で表現するのは難しいのですが、口に含むと「なんじゃあこりゃああ!」という感じになります。変な香りや刺激があって、「ずっと口に含んでいたい」とか「なんという心地よさだろう」とかいった感じがまったくなく、ただ異質なものとして認識され、思わず吐き出したくなる。

そういった酒はそれ以上飲まないで他の酒を飲むのがよいですが、特にお店だと、酒へのそれなりの想いがないとなかなかできることではありません。でも、もったいないと思って飲むと、気持ち悪くなるんですよね。

食べ物でも不味かったり変な味だったりしたら食べずに捨てたり、お店では下げてもらったりすると思いますが、酒も同じです。飲み続けるのが辛かったら、躊躇なく捨てましょう。体調を崩します。



どうやって燗の仕上がりを判断するか?温度をはかるよりは、実際に飲んでみるのがよいです。飲んでみて、もう少し温めたいなとか、熱くしすぎたとか感じながらやる。

あとはもう感覚と慣れの問題です。料理でも味見しますよね。ただ、味見しているうちに全部なくなってしまわないように注意!味見の量も足して最初に多めに徳利に入れてしまいがちですが、酒量が増えます(笑)


燗の方法はさまざま。

電子レンジは楽は楽。

直火だと、ガスか炭火が選べます。湯煎と比べるとお湯が湧くまで待たなくていいのが利点。炭火は本当にトロトロになる。

蒸し器に入れてしまうのも一つですが、徳利にお湯が入らないように注意。蓋など使いましょう。

王道はなんといっても湯煎。湯煎と一言でいっても、まずお湯を沸かしてそこにつけておくのか、水から一緒にあたためるのかで違ってきます。徳利が鍋底や側面に触れる状態にしておくのか、何らかの方法で鍋から離すのかも。熱源はIHも選択可ですが、やったことない。

湯煎の派生形として、「一緒に風呂に入る」というのがあります。徳利に入れた酒を風呂に持って入って、一緒に温まりながら飲む。危険性ゼロではないので、風呂で一緒に温まってから、上がってすぐに食事と合わせて飲むのがよい、と書いておきましょう。

温泉宿で露天風呂付きの部屋を予約し、持ち込んだ酒を露天風呂で湯煎するのは最高です。4合瓶に入れて行けば、携帯にも燗にも便利。大人数なら一升瓶でもいいかもしれないですが、温まるのにも相当の時間がかかると思われるので注意。のぼせてしまいそうです。

あとは、本当に徳利を人肌につけて温める人肌燗もいいですよ。


お気に入りは、炭火で直火もしくは水から温める湯煎、もしくは一緒に風呂に入る、です。簡単なのは電子レンジか、お湯につけとく湯煎。鍋物をするときに鍋に徳利を入れとくという人もいました。


ただ、一人で料理も、直火燗もしくは水から温める湯煎も同時にやって、ちょうど食事のタイミングにいい具合で合わせるのは至難の業です。食事を作ってから燗をしていると料理が冷めてしまうし、先に燗をして料理を後で作ると燗冷ましになってしまう。燗冷ましも美味しいけど、やはり輝いている時間を逃してしまう。

解決策としては、燗をしつつ飲みながら料理するか(怪我や火傷に注意)、鍋や炭火などでゆっくり調理しながら燗もするか、でしょうか。



ところで、茶室はいらんけど、青木正児のいう「酒室」はほしいなと思います。

 青木正児 酒の肴・抱樽酒話 (岩波文庫)
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気のおけない友たち数人で集まって飲むための部屋。食器、酒器、調理器具、囲炉裏などがあってひと通りの煮炊きができる。隣には風呂があって、風呂に入ってから部屋に入る。自分たちで燗をしながら、鍋や焼き物などしつつ、ゆっくり楽しむ。そういった部屋を居間や食卓とは別に持ちたいものだ、と。

要は、誰かを煩わせずに、また誰に遠慮することもなく、自分たちだけで心おきなく質の高い酒盛りを完結できる部屋を持ちたいということです。

そんな部屋があって、さらに、隣の部屋で布団を敷いてそのまま寝られたら最高。




暖まるためだけに燗をするわけではないですが、秋から冬は燗を始めるのによい季節だと思います。徳利がなくても4合瓶を使ってとりあえず始めてみると、人生が変わりますよ。

共に酒室で楽しみましょう!