2019年2月28日

あかり

「電気」を「あかり」にかえませんか?


いま朝の5時です。真っ暗な四畳半の部屋に灯油ストーブだけをつけています。炎が暖かく、やわらかい。

闇を照らすことで、見えなかったものが見えてくる。けれども、明るくすれば全てが見えるわけではなく、かえって見えなくなってしまうものも、感じられなくなってしまうものもたくさんある。

その闇と光のせめぎあいを絶妙なところにおさめてくれるのが、「電気」ではなく「あかり」。キャンプファイヤー、キャンドルディナー、ろうそくだけを灯しての怪談にあるような情感が生まれます。

あかりだけが明るくてまわりはうっすらとしか見えないところに、奥行きや凄みがある。

人間の目には見えていないもの、人間には感じることができない、観測することすらできないものがあるのだということをほのめかすようなあかり。


いまや紐を引いたり、スイッチやボタンを押したり、「アレクサ、電気つけて」と声をかけたり、何かしらのワンアクションでパッと瞬時に電灯がつくのが当たり前ですが、ふわっと明るくなる火のあかりにはまた違った良さがあります。

そんな火のあかりの良さを感じられる作品をご紹介。

  ジョルジュ・ド・ラ・トゥール
  大工の聖ヨセフ など
  https://bit.ly/2Vd5XdS


  谷崎潤一郎
  陰翳礼讃
  https://amzn.to/2SVq1nA

   こちらはKindle版なら無料。
   スマホのKindleアプリで無料で読めます!



火のあかりといってもいろいろありますね。
家庭で利用可能なものは、次のようなものでしょうか。

  ろうそく
  炭
  ガスストーブ
  灯油ストーブ
  薪ストーブ

!火事・やけど・一酸化炭素中毒に注意!


ろうそくは暖かくはならないですが、冬以外は使いやすいです。

炭火のあかりには独特の暖かみがあります。赤く熾ったり静かに沈んだりするのが楽しい。近くだけしか暖かくならないので、冬以外の使用もおすすめ。
でも、やっぱり手間はかかります。煮炊きに炭を普段から使っていた頃は、寝る前に囲炉裏や火鉢の灰に埋め、朝に掘り出してまた火種に使って火を絶やさないようにしていたそうですが、現代の生活でそれをやるのは難しいです。


火のあかりに共通するのは、変化すること。「うごき」が火のあかりの特徴です。

その点で面白いのは、和ろうそく。そのへんで広く売られているのは洋ろうそくで、それとは違います。火が時折こまかくふるえるたり、ときどき「ばちばちっ」となにかが弾ける音がしたりするのも面白いですよ。

  和ろうそく
  https://bit.ly/2TfNy2Z

灯油ストーブでは、ストーブの上の空気が揺れて、向こう側の景色が揺れるも楽しい。また、火の強さ、ひいてはあかりの強さを調節できるのも素晴らしい特徴です。明るすぎるよりは消えないギリギリのところが、趣としても、燃費的にもいいですよ。


ただ、これらのあかりを使うのはそれなりに面倒だったり、環境が必要だったりします。なかなか大変という場合は、代替案としては電球色LEDですね。


LEDの電球にも昼白色とか電球色とかあるのですが、これはなにかというと、白い光かオレンジがかった光かということです。昼白色は白い光。電球色はオレンジがかった光。

細かい話は省きますが、家では主に電球色を使って、必要なところだけ昼白色を使うのがおすすめです。それも、天井の照明には使わず、デスクライトなどを部分的に使うと効果的です。昼白色では明るいだけでグラデーションが乏しく、深みがない印象になりがちです。

光が強くなると見えるようになるものと見えなくなってしまうものがあります。朝日がさした瞬間に全てが変わってしまうように。

また、電球色の中でも明るさで全然違います。100Wは明るすぎ。60Wもかなり明るい。もっと暗めでもいいのですが、同居人からは苦情が出るかもしれません。暗めがおススメです。

また、透明な電球と白い電球でもかなり変わるので、両方買って試してみるといいですよ。

  電球色LED 40W相当(白いの)
  https://amzn.to/2Nls8fd

  LED電球 40W形相当(透明)
  https://amzn.to/2E6TFgk


そして暗めで変わり種としておすすめなのが、このLEDランタン。

  スノーピーク
  たねほおずき
  https://amzn.to/2NkZHy8

持ち運びできるあかりはとてもいいです。

ろうそくもそうですが、燭台ごと持ち運べるので、暗さや静けさを保ったまま、部屋から部屋へ移動したいときに便利です。


あかりの話しをしてきましたが、大前提として、明け方や、少し日が暮れてきたくらいの暗さなら、室内のあかりをつけないことが趣や落ち着きにつながります。ちょっと暗いかなと感じるときに、明るくはなくてもすごく暗くはないなら、すぐにあかりをつけずにしばらくそのまま過ごしてみてください。
少しでも見えているなら、余計なものが見えなくなっていいという面もあります。片付いてない部屋の有様とか、床に落ちてるゴミとか。



居間のあかりだけでも昼白色ではなく電球色に変えてみると、世界が変わります。基本は電球色の電灯で、必要な場合だけ昼白色のあかりを使うのがよいです。電球の値段は一緒なので。

「電気」を「あかり」にかえるだけで、ぐっと雰囲気が出ます。
コストもそんなにかからないので、是非!

2019年2月13日

朝酒

酒と、そして自分と静かに向き合う。
落ち着いて旨さを楽しみ、心地よく一日をはじめる。


ホテルで朝食が充実しているところだと飲み物にスパークリングワインが選べますが、冬の静寂の中で朝から燗もいいですよ。冬の朝は、灯油ストーブで暖まりながらじっくり燗をつけるのに最高です。
少しずつ白む外を感じながらの酒。これはやっぱりワインではなく燗の出番。

  燗
  https://bit.ly/2RXGweg

  寒すぎる室内
  https://bit.ly/2E5l8Al


朝酒といえば白居易。朝酒を詠んだ多くの詩の一つに卯時酒というのがあります。『中華飲酒詩選』から一部改変して抜粋。

  『中華飲酒詩選』
  https://amzn.to/2HYGN0Q


  卯は朝の六時頃。
  早朝に飲む酒で、之を卯酒(ぼうしゅ)という。
  楽天は甚だ之を愛し、往々詩に詠じてゐる。
  我国でも楽天の詩が流行した影響からか、
  卯酒を「ばうす」と読んで朝酒のこととしてゐる。



  卯時酒

 佛法贊醍醐,仙方誇沆瀣。

  仏法では醍醐(チーズのようなもの)を賛美し、
  不老不死の仙人になるという薬には北方の夜半の気をたたえる


 未如卯時酒,神速功力倍。

  しかし、まだまだ卯の刻の酒の
  廻りが早く効きめのよいに及ぶまい


 一杯置掌上,三咽入腹內。

  一杯掌に乗せて
  三口呑んで腹に這入るや


 煦若春貫腸,暄如日炙背。

  蒸すこと春が腹を貫く如く
  温むること日が背を炙るようだ


 豈獨肢體暢,仍加志氣大。

  五体がのびのびするばかりか
  志気はますます大きくなり


 當時遺形骸,竟日忘冠帶。

  即座に生見を忘れ
  終日官職も忘れる


 似遊華胥國,疑反混元代。

  その気持は無慾の国に遊ぶに似ており
  天地開闢時代に返ったかと疑われる


 一性既完全,萬機皆破碎。

  本性さえしっかりしておれば
  何事にも打ち勝てよう


このあとすこし半生を振り返り、最後は、


 五十年來心,未如今日泰。

  五十年このかた我が心
  未だ今日の如く安らかであったことはない


 況茲杯中物,行坐長相對。

  まして此の杯中のものに
  行住坐臥長く相対しているのだもの



日本では、平安時代の『大鏡』にすでに、朝酒の肴に雉を用意している旨があります。

 後夜(夜半から早朝)にめすぼうす(卯酒)の御さかなには、
 ただ今ころしたるきじをぞまゐらせけるに


また、今回はじめて知りましたが「朝酒は門田(かどた)を売っても飲め」ということわざがあるそうです。「門田」とは家の門前にある田のことで、一番大事な田んぼのこと。


昔からみんな朝から楽しく飲んでたんやなぁ、と感動しました(笑)



では、現代の日本ではどうか?
朝9時から仕事の人でも、7時に飲み終われば、活動しはじめるまでに2時間あります。大量に飲まなければ、それまでには素面に戻れるでしょう。5時起きなら2時間もあり、ゆっくり飲めます。

朝に残るほど飲むよりは、晩は早めに切り上げて、朝にも少し飲むほうが体への負担も軽そうです。そして、起きてまた飲めると思うと晩にそんなに飲まなくなるということもあります。また、しっかりした食事をしないからか、寝起きだからか、予定があるからか、朝は晩ほど量を飲みたいとは思わないように思います。

後の予定があるのでほどほどに飲むことになるのは、むしろひとつの利点ではないかと思います。あくまでも9時から対面で仕事できる程度の飲酒である必要があります。


ここで、ひかえめな量で満足する秘訣を。うまく利用すると、トータルの飲酒量が減るかもしれません。

少なめの量を口に含み、しばらく溜めて味わうと楽しいです。数を数えるわけではなく目安ですが、酒を10秒以上は口の中にとどめるとよいのではないかと思います。口の中の空間を広げたり狭めたり、酒を舌や頬で弄んだりすると、さらに楽しいです。飲み込んだ後も、残る香りや余韻、身体に染みわたっていく感覚を時間をかけて味わう。

ゆっくり飲むこと自体が目的ではないのですが、こういった飲み方が結果的に、深酒にはならずに、ゆっくり深く楽しむことにつながります。口に入れてすぐにゴクっと飲みこむ飲み方では、どうしてもスピードが早くなって飲酒量が多くなりますし、味わいや香り、ひろがりや余韻などの楽しみが大幅に損なわれてしまいます。味をどぎつく感じる要因にもなります。少量を口にいれて、しばらく口の中でとどめてはゆっくり感じるようにして飲むと、あたりが柔らかくなります。


また、早朝は外部からまともな肴を調達する手段がないので、買ってきておくか、自分で作るしかありません。そこで、前の晩の残りを肴にすると、晩にはいくらか残しておこうとする分、夕食を減らすことになり、ダイエットにもつながるかもしれません。


もちろん、意識が完全にクリアではなくなるというデメリットはあります。精緻な論理的思考には全く向いていないと思います。しかし、余計な部分を削ぎ落とせたり、大胆な発想が得られたりといった効能はあるかもしれません。「無慾の国に遊ぶに似」た気持ちで、「何事にも打ち勝て」るように思います。

また、匂いは自分ではわかりにくいので、酒臭さには気をつけたほうがいいかもしれません。マスクをしてしまうのも手ですが、業種によっては厳しいかもしれませんね。


車や機械の運転をする人でないなら、朝酒、ゆっくり味わってみてください!