2020年9月29日

職場の健康診断の医者をやっていて感じること

いまの職場が合わないなと感じていて、かつ、職場で自分より前から働いている人が体や心を壊していることが多いなら、他の職場を探してみるのもひとつかもしれません。


雇用が不安定な環境で、あまり無責任なことは言えませんが。



このところ、職場の健康診断のお医者さんをやる機会が多かったんです。


職場の健康診断の楽しさのひとつは、そうでもなければ絶対に行かないような場所へ行って、おそらくもう会うことのない人たちと出会うこと。


見ず知らずの会社や機関、工場や学校、福祉施設。田園風景にたたずむ昭和な感じの会社、都会の何十階もある高層ビルの上層階オフィス。堂々と入っていって人と話すなんて、なかなかないですからね。降りたことがない駅で降りるのも楽しみです。こないだは初めて近江鉄道に乗りました。


問題なければ、ひとり30秒くらいで終了。お見合いパーティーのような、第一印象の繰り返し。延々とやっていると、やっぱり笑顔と挨拶って大事だな、と感じます。



そうやって様々な事業所をめぐっていると、それぞれの場所で


 カルチャーが全く違う

 有病率が全く違う


ことを改めて感じました。みんな同じ日本、それも関西に住んでいても、違った世界を生きているなぁ、と。


事業所に入った瞬間、騒音や振動、臭いなどで、すぐにでも帰りたくなる場合があります。「自分はこの環境でやっていくのは絶対に無理」と瞬時に思うところもあります。


でも、仕事しているうちに、わりと慣れてくるんですよね。


とはいえ、慣れない人もきっといると思います。慣れないのなら、そうじゃない環境がたくさんあるんですから、環境を変えてみるのはひとつの選択だと思います。



それにしてもびっくりしたのは、この社会状況の中でも、受診する従業員の3割くらいがマスクしてない職場。健診会場なので、もちろん室内です。健診のスタッフとそれなりに会話も交わします。でも3割くらいがマスクしてない。世間は広い。




職場によって、健診にひっかかる人の頻度が大きく違うことを感じます。業種によっても違うし、同業種でも職場によって違う。


職場環境の違いは大きいです。毎日過ごす場所ですからね。仕事内容はもちろん、物理的な環境の違い、職場のカルチャーの違い、周りにいる人の違い、様々な要因を全てひっくるめた環境で、健康状態がある程度決まるのだと思います。



医者の診察で引っかかる人はそんなに多くないんです。1日やって2、3人のことが多く、かなり多いところでも受診者の5%くらいでしょうか。なので、大きめの事業所では、時間の関係で医師の診察は問診のみにしているところもあります。健診で行う診察のうち、一部を除いては、採血やレントゲン、心電図でカバーされますからね。


その中でも診察でひっかかる人が多い業種は、タクシー、建設、運輸。圧倒的に、肺で音がする率が高い。主にタバコのせいでしょう。


また、建設や運輸では、20代でも刺青をみかけます。それもいわゆるタトゥーではなく和風の刺青。いまどき肝炎対策はされてるのかもしれませんが。さもありなんというヤバい目つきの人もいて、思わず腕に注射の痕がないか見てしまいますが、まだ発見した事はありません。


ちなみに、何のためらいもなく見せる人もいれば、やたら遠慮がちにシャツを上げる人もいるのは興味深いです。最近見たなかで見事だったのは、唐獅子牡丹の方と観音様の方。 観音様なんて、ふくよかなお腹にドーンとありがたくおわしました。




健診でひっかかるわけでは無いんですが、心療内科を受診している人が多いのは、都会のオフィス。



同業種の職場による違いを肌で感じるのはタクシー。とても清潔な事業所もあれば、入った瞬間タバコの臭いで息を吸いたくなくなる事業所も。



また、これは健診でわかるわけでは無いのですが、同業種の職場による違いで、自分にとって分かりやすいのは病院。同じ病院の中でも階が違ったり、廊下を挟んで向かい同士だったりで、全くカルチャーが違うことはよくあります。片方はとても良い雰囲気でみんな仲良し。もう片方はギスギスして静まり返っていて、すぐ誰かやめていく。医療系は転職しやすいのでやめる人も行動が早い。



医療以外の事業所でも、特定の部署だけ退職者が多いというのは産業医をやっていてよく見かけます。


その部署の歴史と、在籍が長い人たちの行動様式で空気が出来上がってしまっているので、部署のメンバーを大幅に入れ替えでもしないと、なかなか変わらないんですよね。





「ここで通用しなければ、どこへ行っても通用しない」というようなことを言う人が時々います。



確かに環境を変えれば通用するとは限らないんですが、とはいえ、探せば通用する場所はそこそこあるんじゃないかという気はします。ましてや、それなりに日常業務を回せていた人なら、職場を移ると即戦力として重宝されることも十分あると思います。少なくとも、合ってなくてしんどいと感じるなら、今よりもまだなんとかなる場所は、きっとあるんじゃないかな。


今いる場所でうまくやれるに越した事は無いですけれども、うまくいってない場合に自分を職場に合わせるのは難しいというのが大半の人の現実だと思います。


例えば、21世紀の日本で暮らしている人が、北朝鮮に拉致されて収容所で強制労働させられるとしたら。うまくやっていける人はかなりの少数派だと思います。日本でならバリバリ働ける人でも。


もし安全にできるのなら、脱北したほうが幸せに過ごせる人が圧倒的多数なのではないでしょうか。日本で転職しても、自分や一族郎党、隣人が殺されるわけでは無いですし、脱北よりリスクははるかに低いでしょう。


自分の市場価値をある程度は見積もる必要がありますが、もし見誤ったとしても、生活保護という稀代のセーフティーネットもあります。働けなくても、清潔で風呂もトイレもあるエアコンの効いた部屋で、好きなだけ読書やネット三昧の日々を送ることもできます。所得税も住民税も社会保障費もゼロです。ほぼ桃源郷です。



あまり無責任に転職を勧めるわけにもいかないんですが、いま現在、身体的にあるいは精神的にうまくいっていないのなら、やはり働き方、生き方を変えるのは大きな選択肢だと思います。職場を変えるだけではなく、自営業を始めるとか、生活保護を受けるとかも含めて。


一人ひとりが自分に合っていない環境に無理して合わせなくても何とかやっていける程度には、まだ日本は豊かです。



ドラクエ3では、レベル20にならないと転職できませんでしたが、現実世界では、いつでも転職できます。もしいまの環境が自分に合わなくて辛いなら、病気になったり心が病んだりするよりは、何かしら働き方や生き方を変えてみた方が、楽しく暮らせるんじゃないでしょうか。