2018年11月27日

常温も悪くないが、燗はさらにいい。

 常温の酒
 https://bit.ly/2Sekbtp


味わいが柔らかくなり、活き活きする。輪郭の線がなくなる。どこまでが酒で、どこからが口の中なのか、どこまでが体でどこからが体の外の世界なのか。目を閉じると、意識だけが身体から解き放たれるような感覚になる。

冷めていく過程も、冷めきったあともまた美味い。翌朝に徳利に残った酒もなかなかいい。

食事との相性もあきらかにいい。ひやや冷酒とは次元が違う。

暖まるからというのもなくはないけど、暖まるためだけに飲むわけではない。うまいから飲む。なので、夏でも燗。温まるのだけが目的なら、白湯でいい。


直近では、紺碧の渓谷で、舞い散る紅葉の中での燗は最高でした。

 屋外で飲む
 https://bit.ly/2FHYbWE


昔は酒をのむといえば燗をつけるのが当たり前だったようです。平安時代中期の『宇津保物語』にはもう「わかしつつ飲ます」話が早くも出てくるそうで、落語や昭和初期までの小説、映画などでは酒はたいてい燗。「ひやでもええから」「ひやですみません」といった表現もでてくる。いまぱっと思い出せる、燗をつける場面がある作品たちをいくつか。

 矢橋船
 https://bit.ly/2QgLK8i

 晩春
 https://bit.ly/2Sa9OqL

 まあだだよ
 https://bit.ly/2DVoRBr


白楽天の詩にも燗が出てくるので、昔から東アジアの一部ではみられた光景だったようです。リンク先の画では火鉢に燗鍋をのせてますね。

 酒の燗に紅葉を焚く
 http://exci.to/2r2lEYo


いまでも紹興では燗をしてますが、これが絶妙でした。燗用の湯煎に使うおおきな寸胴鍋の角ばったようなものがあって、その寸胴より一回り小さい鍋にいっぱいの酒を温めていました。その鍋の蓋を取って、おたまで掬って湯呑みに入れてくれる。

 紹興「咸亨酒店」
 https://bit.ly/2FFRunP



ところで、日本酒には二種類あります。燗に合う酒と、そうでない酒です。もちろん燗に合う酒がおすすめです。たいてい、燗に合う酒のほうが常温で飲んでも美味しいです。

燗に合わない酒は、文字で表現するのは難しいのですが、口に含むと「なんじゃあこりゃああ!」という感じになります。変な香りや刺激があって、「ずっと口に含んでいたい」とか「なんという心地よさだろう」とかいった感じがまったくなく、ただ異質なものとして認識され、思わず吐き出したくなる。

そういった酒はそれ以上飲まないで他の酒を飲むのがよいですが、特にお店だと、酒へのそれなりの想いがないとなかなかできることではありません。でも、もったいないと思って飲むと、気持ち悪くなるんですよね。

食べ物でも不味かったり変な味だったりしたら食べずに捨てたり、お店では下げてもらったりすると思いますが、酒も同じです。飲み続けるのが辛かったら、躊躇なく捨てましょう。体調を崩します。



どうやって燗の仕上がりを判断するか?温度をはかるよりは、実際に飲んでみるのがよいです。飲んでみて、もう少し温めたいなとか、熱くしすぎたとか感じながらやる。

あとはもう感覚と慣れの問題です。料理でも味見しますよね。ただ、味見しているうちに全部なくなってしまわないように注意!味見の量も足して最初に多めに徳利に入れてしまいがちですが、酒量が増えます(笑)


燗の方法はさまざま。

電子レンジは楽は楽。

直火だと、ガスか炭火が選べます。湯煎と比べるとお湯が湧くまで待たなくていいのが利点。炭火は本当にトロトロになる。

蒸し器に入れてしまうのも一つですが、徳利にお湯が入らないように注意。蓋など使いましょう。

王道はなんといっても湯煎。湯煎と一言でいっても、まずお湯を沸かしてそこにつけておくのか、水から一緒にあたためるのかで違ってきます。徳利が鍋底や側面に触れる状態にしておくのか、何らかの方法で鍋から離すのかも。熱源はIHも選択可ですが、やったことない。

湯煎の派生形として、「一緒に風呂に入る」というのがあります。徳利に入れた酒を風呂に持って入って、一緒に温まりながら飲む。危険性ゼロではないので、風呂で一緒に温まってから、上がってすぐに食事と合わせて飲むのがよい、と書いておきましょう。

温泉宿で露天風呂付きの部屋を予約し、持ち込んだ酒を露天風呂で湯煎するのは最高です。4合瓶に入れて行けば、携帯にも燗にも便利。大人数なら一升瓶でもいいかもしれないですが、温まるのにも相当の時間がかかると思われるので注意。のぼせてしまいそうです。

あとは、本当に徳利を人肌につけて温める人肌燗もいいですよ。


お気に入りは、炭火で直火もしくは水から温める湯煎、もしくは一緒に風呂に入る、です。簡単なのは電子レンジか、お湯につけとく湯煎。鍋物をするときに鍋に徳利を入れとくという人もいました。


ただ、一人で料理も、直火燗もしくは水から温める湯煎も同時にやって、ちょうど食事のタイミングにいい具合で合わせるのは至難の業です。食事を作ってから燗をしていると料理が冷めてしまうし、先に燗をして料理を後で作ると燗冷ましになってしまう。燗冷ましも美味しいけど、やはり輝いている時間を逃してしまう。

解決策としては、燗をしつつ飲みながら料理するか(怪我や火傷に注意)、鍋や炭火などでゆっくり調理しながら燗もするか、でしょうか。



ところで、茶室はいらんけど、青木正児のいう「酒室」はほしいなと思います。

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気のおけない友たち数人で集まって飲むための部屋。食器、酒器、調理器具、囲炉裏などがあってひと通りの煮炊きができる。隣には風呂があって、風呂に入ってから部屋に入る。自分たちで燗をしながら、鍋や焼き物などしつつ、ゆっくり楽しむ。そういった部屋を居間や食卓とは別に持ちたいものだ、と。

要は、誰かを煩わせずに、また誰に遠慮することもなく、自分たちだけで心おきなく質の高い酒盛りを完結できる部屋を持ちたいということです。

そんな部屋があって、さらに、隣の部屋で布団を敷いてそのまま寝られたら最高。




暖まるためだけに燗をするわけではないですが、秋から冬は燗を始めるのによい季節だと思います。徳利がなくても4合瓶を使ってとりあえず始めてみると、人生が変わりますよ。

共に酒室で楽しみましょう!

2018年11月19日

常温の酒

常温の酒のよさは体にするっと入ってくること。じわじわしみこんでいく感じ。酒と体がひとつに溶け合う。食事と一緒に楽しむと、また違った表情を見せてくれる。

いま、ウチの室温でちょうどいいか、朝晩はすでにすこし冷たいくらいですが、それでも冷蔵庫から出したばかりの酒よりも、身体とも食事とも馴染みやすいです。


冷蔵庫から出したばかりの酒は、続けて飲もうという感じになりにくい。キリッとするしインパクトは強く感じる傾向がありますが、食事と合わせると酒の味が浮いてしまいがち。決して食事と馴染まないことはないけれど、その広がりは控えめな感じ。まるで、丼ものなのに、ごはんに具が乗っているだけで、丼ものという一品にはなっていないような感じになりやすい。

また、冷たすぎると、体からも食事からも浮いてしまう傾向がつよいと思います。キンキンに冷たくて美味しいのは、ビールでもせいぜい夏場の一口目だけでは?


冷酒を飲み続けるのは辛いのですが、常温や燗であれば、ゆっくり、じっくり飲み続けられる。

素晴らしいお燗になると、本当にやわらかく、口から鼻から喉から胃から、もう全身から皮膚を通り越して外まで放射状に溶けていくような心地よさがあります。ふわーっと暖かく柔らかなものに包まれているやすらぎ。。。

ただ、お燗をするのにいくらか手間がかかるのと、素晴らしい燗にするには技術も様々に必要で、そうそう簡単に出会えるものではないのが難点。自分では、ごくたまにまぁまぁな出来になるくらい。

そこまでの素晴らしさはなくとも、室温に置いておいたものは体にも食事にもそこそこ馴染みます。常温でよければ、保存によさそうなところを選んで置いておくだけなので手間はかかりません。

最初から常温で置いていてもいいし、冷蔵庫で保存していたものを開栓したあとに常温で置いてもいい。

え?「要冷蔵」とか「開栓後は早めにお召し上がりください」とかラベルに書いてある?

無視しましょう。たいていは問題ないです。開栓してから数ヶ月単位で室温で置いていても、いままで一度も問題なかったです。自分で買ってきたものでも、もらいものでも。後述する「開いてしまっていた」ものを除いては。

といっても、冷蔵庫に入れているよりは、やはりいくらか保存に気を使う必要があります。

まず、日光はあたらないところに置いておく。もったいなくて「陽のあたるところに置いたもの」と「陽の当たらないところに置いたもの」を比較したことはないですが、陽があたっていた本の背表紙が著しく劣化することを考えるだけで、ヤバそうですよね。私達も、ずっと陽にあたっていたら日焼けします。なので、押入れの中や棚の端の方へいれたり、新聞紙で包むなどするのがよいと思います。

夏場は要注意。30℃近くなってくると、さすがに味がダラーンとしてしまう傾向があります。お燗で30℃くらいになるのと、室温で置いてて30℃になるのとでは明らかに味が違うのは面白いですね。

そして、酒に勢いがあるのか、気体部分が膨張するためか、ひとりでに栓があいてしまっていたことがありました。楽しみにしてた酒、金属のピリピリやぶって取るキャップ(冠頭というらしい)を外したら栓が浮いて開いてた!最初から締まりきってなかったのかもしれないですが。。。飲んでみると、苦いような渋いような、なんともいえない変な味。舌がピリピリしびれる。。これが熟成の味かも、と思って何度か飲んでみたが、とても一合も飲もうと思えるような感じではない。。。。泣く泣く流しに一升流しました。。。明らかに変なにおいや味がしたら、やめときましょう。

一升瓶にスクリューキャップがないのはなぜ?ひとりでに開いてしまわないので、いいと思うのですが。

また冬場は、室温が0℃近くになるようなところであれば、ちょっと冷えすぎるかもしれません。暖房をつけている部屋にしばらく置いてから飲んだほうがいいかも。そういうときこそ、腰を上げてお燗をするチャンスなのかもしれません。


私達もそうですが、お酒も過ごした環境に応じた変化をします。同じのを何本か買ってきて、違う環境で保存して、同時に開けて飲み比べるようなことをすると楽しいですよ。たとえば一本は冷蔵庫保存で一本は常温保存で、両方とも常温に2,3日くらい放置してから飲むとか。

酒が旨く変化するような環境で過ごしたいなと思います。イメージでしかないですが、豊かな自然に囲まれ、静かに時を過ごす。もちろん厳しさもあるが、豊かさのなかで力強くいきていく。きっと人にも良い環境と共通点があるのではないかと思います。


冷蔵庫に入れずに常温保存は、夏場以外は環境さえよければコストも掛からず手間もいらず。家庭用の冷蔵庫に一升瓶を何本も入れようと思うと大変ですからね。夏場も見越して日本酒用に冷蔵庫を用意してしまうなら話は別ですが。

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一升瓶が4本×4列で16本入りますが、冷蔵庫の上側が開いて出し入れできるので、どの瓶にもアクセスしやすく非常に便利です。瓶の上にも空きスペースがあるので、食品用の冷蔵庫に入り切らないものを入れるのにも使えます。もちろんビールも冷やせます。一升瓶の中の空気や瓶の体積を多めに見積もって一本で2.5Lとしても、100Lなら40本入る計算ですから、24本分くらい余裕がありますね。


いつも冷酒という方。常温で飲んでみると新たな世界がありますよ。しかも無料。

2018年11月8日

羽釜  江戸時代以前の米の炊き方など

和食の店で出てきた、小さな羽釜。炊きこみ御飯、おいしかった。

「羽釜と土鍋と、お米の炊き具合はどんなふうに違いがでるんですか?」と尋ねると、『修行のときから羽釜やったし、羽釜でしか炊いたことないからわかりませんね〜』と正直な回答。

ならば自分で土鍋と羽釜の違いを確かめようと、羽釜を購入してみました。


ちなみに、昔はみんな、土鍋でなく羽釜で炊いていたよう。いわゆる、おくどさんで。

  おくどさん
  https://blogs.yahoo.co.jp/fmyostaff/56394867.html



さて羽釜。使ってみると、やはり電気炊飯器より米が格段にうまくなる!土鍋よりも米が固めで立つ感じです。

  ウルシヤマ 謹製 釜炊き三昧 5合炊き
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  炊飯用土鍋
  https://chobiwafu.blogspot.com/2018/10/blog-post_18.html



羽釜だけでなく「かまど部分」がついているのが秘訣らしい。ちょっと場所とりますが。

  釜炊き三昧でメシを炊く
  https://homepage45.net/gohan/gohan13.htm



見た目よりも軽くて使いやすいんですが、直感的には、もっとずっしり重い羽釜のほうが美味しく炊けそうな気はする。

「かまど部分」なしでもいい具合に炊けるか試したことはないんですが、今度やってみよう。

蓋も、金属でなく木にすると何か変わるかもしれないと思いつつ、実店舗では羽釜の蓋なんて売ってないし、ネットで買うとどんな質感のものが届くかわからないため、買わずに今日に至ってます。

ぶつけたり落としたりしても割れたり欠けたりしないので、扱いは土鍋よりも楽かも。

吸湿性はないため、蒸らしたあとも水気が多めのままずっと入れてると、土鍋よりもご飯がベチャっとしやすいです。おひつへの移動を推奨。ただ、洗い物のあとは土鍋よりもすぐ乾く。

  おひつ
  https://chobiwafu.blogspot.com/2018/10/blog-post_26.html


土鍋はいくらか吸湿性があるので、炊いたご飯を入れたままでも、まだいい感じ。



土鍋か羽釜かどちらかひとつだけ選べと言われたら?難しい選択です。それぞれ違う美味しさがあり、好みによると思います。

固めがいいときは羽釜、柔らかめがいいときは土鍋、がとりあえずの運用。

ついついおひつに移すのを忘れたままのときは、もう片方の使ってないのを使う、というのもよくしている運用。

予熱は土鍋が強い。耐久性は羽釜。ちょっと場所とりますが。



ところで、他のアジアの国って、どうやって米炊いてるんやろ?いまは炊飯器も多そうやけど、ちょっと前までは何かしら他の方法で炊いていたはず。

調べてみると、日本でも今の炊飯方法は江戸時代からとのこと。それまでは「湯取り」という、たくさんのお湯で煮てから余分な煮汁を捨てる方法だったらしい。

  縄文人は米を煮て食べていた?
  http://www.komenet.jp/database/culture/culture04/culture04-2.html

  「煮る」ものだったご飯、「炊く」に変えた台所事情とは
  http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/40806

  昔の炊飯方法「湯取り飯」を試してみた
  https://togetter.com/li/1114159


中国やタイなんかは今でもそれと同じような炊き方のよう。

  中国の阿媽さんの炊き方
  http://www.9393.co.jp/china_japan/kako_china_japan/2012/12_0808_china_japan.html

  タイ米の炊き方
  http://blog.livedoor.jp/rspi/archives/50605626.html


それで味がぜんぜん違うんやなぁ。
よく言われるジャポニカ米が云々、米の種類が違う云々、だけではないということですね。




なにはともあれ、日本の米は土鍋か羽釜で炊くのがうまい!

ガスが使えるのに土鍋も羽釜も持ってない人は、いますぐどちらか買いましょう。幸せはすぐそこに!