2019年2月13日

朝酒

酒と、そして自分と静かに向き合う。
落ち着いて旨さを楽しみ、心地よく一日をはじめる。


ホテルで朝食が充実しているところだと飲み物にスパークリングワインが選べますが、冬の静寂の中で朝から燗もいいですよ。冬の朝は、灯油ストーブで暖まりながらじっくり燗をつけるのに最高です。
少しずつ白む外を感じながらの酒。これはやっぱりワインではなく燗の出番。

  燗
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  寒すぎる室内
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朝酒といえば白居易。朝酒を詠んだ多くの詩の一つに卯時酒というのがあります。『中華飲酒詩選』から一部改変して抜粋。

  『中華飲酒詩選』
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  卯は朝の六時頃。
  早朝に飲む酒で、之を卯酒(ぼうしゅ)という。
  楽天は甚だ之を愛し、往々詩に詠じてゐる。
  我国でも楽天の詩が流行した影響からか、
  卯酒を「ばうす」と読んで朝酒のこととしてゐる。



  卯時酒

 佛法贊醍醐,仙方誇沆瀣。

  仏法では醍醐(チーズのようなもの)を賛美し、
  不老不死の仙人になるという薬には北方の夜半の気をたたえる


 未如卯時酒,神速功力倍。

  しかし、まだまだ卯の刻の酒の
  廻りが早く効きめのよいに及ぶまい


 一杯置掌上,三咽入腹內。

  一杯掌に乗せて
  三口呑んで腹に這入るや


 煦若春貫腸,暄如日炙背。

  蒸すこと春が腹を貫く如く
  温むること日が背を炙るようだ


 豈獨肢體暢,仍加志氣大。

  五体がのびのびするばかりか
  志気はますます大きくなり


 當時遺形骸,竟日忘冠帶。

  即座に生見を忘れ
  終日官職も忘れる


 似遊華胥國,疑反混元代。

  その気持は無慾の国に遊ぶに似ており
  天地開闢時代に返ったかと疑われる


 一性既完全,萬機皆破碎。

  本性さえしっかりしておれば
  何事にも打ち勝てよう


このあとすこし半生を振り返り、最後は、


 五十年來心,未如今日泰。

  五十年このかた我が心
  未だ今日の如く安らかであったことはない


 況茲杯中物,行坐長相對。

  まして此の杯中のものに
  行住坐臥長く相対しているのだもの



日本では、平安時代の『大鏡』にすでに、朝酒の肴に雉を用意している旨があります。

 後夜(夜半から早朝)にめすぼうす(卯酒)の御さかなには、
 ただ今ころしたるきじをぞまゐらせけるに


また、今回はじめて知りましたが「朝酒は門田(かどた)を売っても飲め」ということわざがあるそうです。「門田」とは家の門前にある田のことで、一番大事な田んぼのこと。


昔からみんな朝から楽しく飲んでたんやなぁ、と感動しました(笑)



では、現代の日本ではどうか?
朝9時から仕事の人でも、7時に飲み終われば、活動しはじめるまでに2時間あります。大量に飲まなければ、それまでには素面に戻れるでしょう。5時起きなら2時間もあり、ゆっくり飲めます。

朝に残るほど飲むよりは、晩は早めに切り上げて、朝にも少し飲むほうが体への負担も軽そうです。そして、起きてまた飲めると思うと晩にそんなに飲まなくなるということもあります。また、しっかりした食事をしないからか、寝起きだからか、予定があるからか、朝は晩ほど量を飲みたいとは思わないように思います。

後の予定があるのでほどほどに飲むことになるのは、むしろひとつの利点ではないかと思います。あくまでも9時から対面で仕事できる程度の飲酒である必要があります。


ここで、ひかえめな量で満足する秘訣を。うまく利用すると、トータルの飲酒量が減るかもしれません。

少なめの量を口に含み、しばらく溜めて味わうと楽しいです。数を数えるわけではなく目安ですが、酒を10秒以上は口の中にとどめるとよいのではないかと思います。口の中の空間を広げたり狭めたり、酒を舌や頬で弄んだりすると、さらに楽しいです。飲み込んだ後も、残る香りや余韻、身体に染みわたっていく感覚を時間をかけて味わう。

ゆっくり飲むこと自体が目的ではないのですが、こういった飲み方が結果的に、深酒にはならずに、ゆっくり深く楽しむことにつながります。口に入れてすぐにゴクっと飲みこむ飲み方では、どうしてもスピードが早くなって飲酒量が多くなりますし、味わいや香り、ひろがりや余韻などの楽しみが大幅に損なわれてしまいます。味をどぎつく感じる要因にもなります。少量を口にいれて、しばらく口の中でとどめてはゆっくり感じるようにして飲むと、あたりが柔らかくなります。


また、早朝は外部からまともな肴を調達する手段がないので、買ってきておくか、自分で作るしかありません。そこで、前の晩の残りを肴にすると、晩にはいくらか残しておこうとする分、夕食を減らすことになり、ダイエットにもつながるかもしれません。


もちろん、意識が完全にクリアではなくなるというデメリットはあります。精緻な論理的思考には全く向いていないと思います。しかし、余計な部分を削ぎ落とせたり、大胆な発想が得られたりといった効能はあるかもしれません。「無慾の国に遊ぶに似」た気持ちで、「何事にも打ち勝て」るように思います。

また、匂いは自分ではわかりにくいので、酒臭さには気をつけたほうがいいかもしれません。マスクをしてしまうのも手ですが、業種によっては厳しいかもしれませんね。


車や機械の運転をする人でないなら、朝酒、ゆっくり味わってみてください!